皆さまお疲れさまです。ケンタ(@den1_tanaoroshi)です。
変圧器の結線を扱ったページには、ほぼ必ず「Δ結線は第3調波を還流できる」という一文が出てきます。ところが、なぜΔだと還流できてYだとできないのかまで書いてあるものは多くありません。結果として、結線ごとの長所短所を丸暗記する形になりがちです。
理由そのものは拍子抜けするほど単純です。第3調波は三相とも同じ位相で現れるので、閉じた輪になっているΔの中では回れて、中性点で合流するYでは行き場がなくなります。あとはキルヒホッフの電流則を当てはめるだけで、結線ごとの性質が全部そこから出てきます。
本記事では、第3調波が出てくる原因から、三相とも同相になることの確認、Δでの循環、Y-Y結線がひずむ理由までを一続きで整理します。この論点は電力科目で繰り返し出題されているので、押さえておくと得点が安定します【PR】。
📌 この記事でわかること
- ✓ 第3調波が変圧器で発生する原因(鉄心の磁気特性と励磁電流のひずみ)
- ✓ 第3調波が三相とも同相になることを、位相を3倍するだけで確かめる方法
- ✓ Δでは循環電流になって線側へ出ず、Y-Y結線では流れられずに相電圧がひずむ理由
- ✓ この論点が実際に出題された年度と、そこで問われた形
結論:三相とも同相だから、輪の中でしか回れない
先に結論だけ示します。押さえるのは次の3点です。
第3調波とΔ結線で押さえる3点
- 第3調波は三相とも同じ位相になる。基本波が \( 120^\circ \) ずつずれていても、周波数が3倍になると位相のずれも3倍の \( 360^\circ \) になり、1周して重なる
- Δ結線は閉じた輪なので、その中を循環電流として回れる。第3調波は三相とも同じ波なので、輪を同じ向きに巡る1本の電流として辻褄が合う。線側には出てこない
- Y結線は中性点で三相が合流するので、行き場がない。同相の電流は打ち消し合わずに足し算になるため、帰り道がなければそもそも流れられない。流れられないぶん磁束がひずみ、その結果として相電圧がひずむ
名前が似ていますが、Δ-Y変換とは別の話です。あちらは3つの抵抗を三角形から星形へ置き換える計算上の等価変換で、こちらは変圧器の巻線をどう結ぶかという実物の結線を指します。同じΔという記号を使うので、理論科目と電力科目で頭を切り替えてください。
そもそも第3調波はどこから出てくるのか
第3調波は外から入ってくるものではなく、変圧器自身が作ります。原因は鉄心の磁気特性が直線ではないことです。
一次側に正弦波の電圧を加えたとき、鉄心を通る磁束のほうは正弦波になります。これは巻線に生じる誘導起電力が \( v_{1} = N_{1} \dfrac{\mathrm{d}\varPhi}{\mathrm{d}t} \) で書けるためで、電圧が正弦波なら、その積分である磁束も正弦波になるからです。
この関係を実効値でまとめたものが \( V_{1} \fallingdotseq 4.44 f N_{1} \varPhi_{\mathrm{m}} \) です。磁束の最大値が電圧と周波数だけで決まってしまう点については、鉄損が一定になる理由の記事で詳しく扱っています。鉄損が負荷によらず一定と言えるのも、もとをたどればこの式です。
問題は、その正弦波の磁束を作るのに必要な電流のほうです。ここで効いてくるのが、励磁電流と磁界の強さが比例関係にあるという点です。
磁束のほうは電圧側で正弦波に決められています。鉄心の断面積を \( A \) とすれば磁束密度は \( B = \varPhi / A \) なので、\( B \) も正弦波です。
\( B \) と \( H \) を結ぶのが鉄心の磁化曲線(B-H曲線)で、これが直線ではありません。磁束密度が高い領域ほど曲線は飽和していき、同じだけ \( B \) を増やすのに必要な \( H \) が急に大きくなります。したがって、\( B \) を正弦波の頂点まで持ち上げる区間では \( H \) が跳ね上がり、山が尖ったひずみ波になります。
ここで、鉄心を一周する磁路の長さを \( l \)、一次巻線の巻数を \( N_{1} \) とすると、アンペアの周回積分の法則から起磁力は \( N_{1} i = H l \) と書けます。整理すると \( i = \dfrac{l}{N_{1}} H \) となり、\( l \) と \( N_{1} \) は変圧器の構造で決まる定数です。つまり、励磁電流の波形は磁界の強さ \( H \) の波形の相似となり、励磁電流の波形も山が尖ったひずみ波になります。
このひずみを正弦波の重ね合わせとして分解したとき、基本波の次に大きく残る成分が第3調波です。テキストや問題文で「第三調波」「第3高調波」と表記されているものも同じものを指します。
三相とも同相になることを式で確かめる
第3調波が三相で同じ位相になることは、正弦波である三角関数の位相を三相で比較して確かめられます。まず、基本波の各相を次のように置きます。
\( \begin{aligned} i_{\mathrm{a}} &= I_{1}\sin\omega t \\ i_{\mathrm{b}} &= I_{1}\sin\left(\omega t – \dfrac{2\pi}{3}\right) \\ i_{\mathrm{c}} &= I_{1}\sin\left(\omega t – \dfrac{4\pi}{3}\right) \end{aligned} \)
各相の波形は同じ形が \( 120^\circ \) ずつずれて並んだものです。同様に、第3調波成分は\( 120^\circ \) ずつずれて角周波数だけが \( 3\omega \) になります。
\( \begin{aligned} i_{\mathrm{a3}} &= I_{3}\sin 3\omega t \\ i_{\mathrm{b3}} &= I_{3}\sin 3\left(\omega t – \dfrac{2\pi}{3}\right) = I_{3}\sin\left(3\omega t – 2\pi\right) = I_{3}\sin 3\omega t \\ i_{\mathrm{c3}} &= I_{3}\sin 3\left(\omega t – \dfrac{4\pi}{3}\right) = I_{3}\sin\left(3\omega t – 4\pi\right) = I_{3}\sin 3\omega t \end{aligned} \)
3式とも右辺が同じになり、第3調波は三相とも完全に同じ波になります。したがって3つを足すと打ち消し合わず、\( i_{\mathrm{a3}}+i_{\mathrm{b3}}+i_{\mathrm{c3}} = 3I_{3}\sin 3\omega t \) と3倍になります。
基本波なら3つ足せばゼロになるところが、第3調波ではゼロにならない。この点を抑えて以降を考えてみましょう。
おまけ:同相になるのは3の倍数次だけ
- 第 \( n \) 調波では、b相の位相のずれが \( -\dfrac{2\pi n}{3} \) になります。これが \( 2\pi \) の整数倍になるのは \( n \) が3の倍数のときだけです
- 第5調波は \( -\dfrac{10\pi}{3} \) すなわち \( +\dfrac{2\pi}{3} \) と同じで、相の並ぶ順序が基本波と逆になります。第7調波は \( -\dfrac{2\pi}{3} \) となり、基本波と同じ順序に戻ります
- つまりΔの輪の中に閉じ込められるのは第3・第9・第15調波といった3の倍数次だけで、第5調波や第7調波は同相にならないため線側へ出ていきます。高調波対策としてΔ結線を挙げるときは、この範囲に限られる点に注意してください
結線とは、励磁電流が通る道の形のこと
「Δ結線」と聞くと、三相の負荷を三角形につないだ回路を思い浮かべるかもしれません。ここでいうΔ結線はそれではなく、変圧器の中にある3つの巻線どうしのつなぎ方を指します。
ここで思い出していただきたいのが、さきほどの \( N_{1} i = H l \) です。鉄心を磁化しているのは巻線を流れる電流そのものなので、巻線のつなぎ方は、そのまま励磁電流の通り道の形になります。
Δ結線:巻線が輪になっているので、その中を回れる
Δ結線では、3つの巻線が三角形につながって1つの閉じた輪になっています。短絡した1巻きのコイルのようなもので、外と何もやりとりせずに電流が回り続けられる形です。
一方、第3調波の励磁電流を線側から供給してもらうことはできません。ここで効くのがキルヒホッフの電流則で、Δ結線の線電流\( I_{\mathrm{a}} \) は、その端子に集まる2つの相電流の差\( I_{\mathrm{ab}} – I_{\mathrm{ca}} \)で決まります。
\( I_{\mathrm{a}} = I_{\mathrm{ab}} – I_{\mathrm{ca}} \)
第3調波\( I_{\mathrm{a3}} \) は三相とも同じ波なので、相電流の差\( I_{\mathrm{ab3}} – I_{\mathrm{ca3}} \) をとれば必ずゼロになります。
\( I_{\mathrm{a3}} = I_{\mathrm{ab3}} – I_{\mathrm{ca3}} = I_{3} – I_{3} = 0 \)
この式は両方向を意味しています。巻線の外側の線側から巻線の同相成分を作り出すことはできませんし、巻線の同相成分が巻線の外側の線側へ出ていくこともできません。線側と行き来のできない成分なので、第3調波の居場所は輪の中しかありません。
これが循環電流です。ここで回っているのは励磁電流の第3調波成分そのもので、変圧器の並行運転で問題になる循環電流(変圧比の不一致で流れる負荷性のもの)とは別物です。この電流が巻線の内側に留まることで鉄心の磁束は正弦波に保たれるので、Δ結線の変圧器では二次側の誘導起電力がひずまずに済みます。
なお、このΔ結線の輪はどの巻線にあっても構いません。鉄心は1つで、一次も二次も三次も同じ磁束を共有しているので、第3調波の起磁力をどの巻線が出しても鉄心にとっては同じことです。Y-Δ結線なら二次側のΔが、Y-Y-Δ結線なら三次巻線のΔが、この役目を引き受けます。
第3調波はΔの中に確かに流れているのに、外から見た線電流には一切現れません。冒頭の「同相、キルヒホッフの法則から」の種明かしとしてはこれで全部です。
気をつけたいのは、第3調波が消えてなくなるわけではないことです。Δ巻線の中では実際に電流が回り続けているので、その電流によるジュール熱は発生します。線側から見えなくなるだけで、なくなっているわけではないと押さえておいてください。
Y-Y結線:流れられないので、電圧のほうがひずむ
一方、Y結線では三相の巻線が中性点1点に集まります。中性点を接地していない場合、そこから外へ出る道がありません。
キルヒホッフの電流則を中性点に当てはめると \( i_{\mathrm{a}}+i_{\mathrm{b}}+i_{\mathrm{c}}=0 \) でなければなりません。ところが第3調波成分の和は先ほど見たとおり \( 3I_{3}\sin 3\omega t \) で、これもゼロにならなければなりません。つまり \( I_{3}=0 \) となり、第3調波の励磁電流は流れることができません。
\( B \) が正弦波になるのに必要な励磁電流を流せなければ、磁束のほうが正弦波を保てません。磁束がひずめば、\( v = N \dfrac{\mathrm{d}\varPhi}{\mathrm{d}t} \) を通じて誘導起電力もひずみます。Y-Y結線では、励磁電流側で閉じ込められなかったひずみが相電圧に現れます。
なお、ひずむのは相電圧だけです。線間電圧は2つの相電圧の差をとるため、同相の第3調波はここでも差し引きゼロになって消えます。Δの線電流が消えたのと同じ理屈で、過去問が「相電圧は」と限定しているのもこのためです。
注意:中性点を接地すれば解決するのか?
- Y結線の中性点を接地すれば第3調波電流の帰り道はできるので、電圧のひずみのほうは抑えられます。ただし、第3調波電流が大地へ流れ出すことで別の問題が生じます。
- 流れ出した第3調波電流は線路の対地静電容量を通って大地へ回るため、近くの通信線に対する電磁誘導障害の原因となります。
- そこで実際には、一次・二次をYのままにして第三の巻線をΔで足したY-Y-Δ結線とします。中性点接地の利点を残したまま、第3調波はΔの三次巻線の中で循環させてしまう形です。
三次巻線には、この副次的な使い道もあります。調相設備の接続用や、変電所の所内電源用として取り出せる巻線として利用されます。Y-Y結線が単独で使われないのは、Δという逃がし道を持っていないからです。
この論点は繰り返し出題されている
ここまでの内容は、電力科目の変電分野と機械科目の変圧器で、そのまま問われてきました。しかも、同じ論点が年度をまたいで繰り返し登場しています。
- 令和5年度下期 電力 問6:Y-Y結線の特徴を穴埋めで問う問題。相電圧が第三調波を含むひずみ波になること、接地すると通信線への電磁誘導障害になること、そこでΔによる三次巻線を設けることが、そのまま空欄になっています
- 平成29年度 電力 問7:上の令和5年度下期 問6は、この年の問題からの再出題にあたります
- 平成27年度 機械 問7:機械科目からの出題。「Δ結線は、励磁電流の第3次高調波を、巻線内を循環電流として流す働きを担っている」「Δ結線がないY-Y結線は、第3次高調波の流れる回路がないため、相電圧波形がひずむ」が、どちらも正しい選択肢として置かれています。本記事で追いかけた筋道が、そのまま文章になっている一問です
- 平成25年度 電力 問6:Y-Y-Δ結線について誤っているものを選ぶ論説問題。Δ結線がないと誘導起電力が励磁電流による第三調波成分を含むひずみ波形になる、という選択肢が正しいものとして置かれています
穴埋めや正誤の形で問われるため、理屈を知らなくても語句を暗記すれば当たることはあります。ただ、同じ論点が10年以上にわたって形を変えて出続けている以上、覚え直すより一度仕組みで理解したほうが結局は安く済みます。
電力科目全体でどこが繰り返されているかは、電験3種 電力の過去問を解き直した記録にまとめてあります。変圧器そのものの扱いは機械科目にもまたがるので、機械の過去問攻略のほうも合わせて見ていただくと、同じ単元が2科目から問われている構造が見えてきます。
過去問で解き方を固める
第3調波とΔ結線の理屈は、ここまでの内容で足ります。あとは、出題のされ方に慣れておくかどうかだけです。
穴埋め問題は選択肢の組合せで出るため、1語でも取り違えると正答にたどり着けません。実際の設問と解説を並べて、どの語がどの理由で入るのかを確認しておくのが確実です。
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まとめ
- ✓ 励磁電流は起磁力 \( N_{1}i = Hl \) より磁界の強さ \( H \) に比例する。磁束(=\( B \))が電圧側で正弦波に決まっているぶん、B-H曲線の非線形さがそのまま電流の波形に出てひずむ
- ✓ 第3調波は三相とも同相。そのため、三相分の第3調波をゼロではなく3倍になる
- ✓ Δ結線は閉じた輪なので循環電流として回れる。線電流は相電流の差として求められるので、同相成分は線側へ出られず、輪の中にしか居場所がない
- ✓ Y結線は中性点で合流するため第3調波の励磁電流は流れられず、磁束を通じて相電圧がひずむ(線間電圧は差をとるので相電圧の第3調波は消える)。接地すれば流せるが通信線への電磁誘導障害を招くので、Δの三次巻線を足したY-Y-Δ結線を使う
- ✓ 同相になるのは3の倍数次だけ。第5調波・第7調波はΔの中に閉じ込められない
結線ごとの長所短所は、覚える項目が多いように見えて、出どころは「第3調波が三相とも同相である」という1点に集約されます。そこさえ押さえておけば、Δがなぜ要るのか、Y-Yがなぜ単独で使われないのかを、その場で組み立て直せます。
結線の性質があやふやになったときは、まず位相を3倍してみてください。三相とも重なることが確認できれば、あとはキルヒホッフの電流則が答えを出してくれます。引き続き当ブログをよろしくお願いいたします!
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