電験のチョッパ回路には降圧・昇圧・昇降圧の3種類があり、それぞれの電圧公式が紛らわしいことで知られます。3つの公式を丸暗記しようとすると本番で取り違えがちですが、実はこの3種類は 「コイルが1周期で蓄えるエネルギー=放出するエネルギー」 という1つの原則から、すべて同じ流れで導出できます。
本記事では、3種類のチョッパを次の 共通3ステップ で導出していきます。
- ON のときにコイルに蓄えるエネルギー\(K_{\mathrm{ON}}\)を求める
- OFF のときにコイルが放出するエネルギー\(K_{\mathrm{OFF}}\)を求める
- 1周期で \(K_{\mathrm{ON}}=K_{\mathrm{OFF}}\) を立てて\(V_{\mathrm{R}}\)について解く
導出後の式を見れば、降圧か昇圧かはその場で判別できます。「どの公式がどれだったか」を覚える必要はありません。
そもそもチョッパとは?電験での出題範囲
「チョッパ」は英語で「ぶつ切る人」の意味で、DC/DCコンバータが直流電圧をスイッチング動作で「ぶつ切り」することに由来します。電圧をぶつ切りすることで平均電圧を変える、つまり昇圧・降圧する装置がチョッパです。
電験では次の3種類が、それぞれの電圧公式とともに登場します。
- 降圧チョッパ
- 昇圧チョッパ
- 昇降圧チョッパ
3つの公式は形が似ていて、丸暗記しようとすると本番で取り違える人が続出します。本記事では 回路図から電圧公式を導出する アプローチを取り、結果の式を見て「降圧か昇圧か」を判別できるようにしていきます。
降圧チョッパ:電源が常時電力を供給する型
このような図が問題で与えられたとします。
スイッチが ON のとき
スイッチが ON のとき、電源はコイルと抵抗に同時に電力を供給します。
時間\(T_{\mathrm{ON}}\)の間にコイルに蓄えられるエネルギー\(K_{\mathrm{ON}}\)は
\begin{align}
K_{\mathrm{ON}}&=V_{\mathrm{L}}IT_{\mathrm{ON}}\\
&=(E-V_{\mathrm{R}})IT_{\mathrm{ON}}\\
\end{align}
となります。
この式となった理由を、エネルギーの定義から確認します。エネルギー(電力量)の定義は
\begin{align}\displaystyle \int V(t)I(t) \mathrm{d}t\\ \end{align}
であり、今回\(V(t)\)に相当する\(V_{\mathrm{L}}\)は一定電圧の\(E\)と\(V_{\mathrm{R}}\)の差で表されるので、定数として\(\displaystyle \int\)の外に出ます。同様に\(I(t)\)に相当する\(I\)も一定電流ですので、\(\displaystyle \int\)の外に出ます。
\begin{align}
K_{\mathrm{ON}}&=\displaystyle \int_{0}^{T_{\mathrm{ON}}}V_{\mathrm{L}}I\mathrm{d}t\\
&= V_{\mathrm{L}}I\displaystyle \int_{0}^{T_{\mathrm{ON}}} \mathrm{d}t\\
&=V_{\mathrm{L}}IT_{\mathrm{ON}}\\
&=(E-V_{\mathrm{R}})IT_{\mathrm{ON}}\\
\end{align}
スイッチが OFF のとき
コイルが放出するエネルギー\(K_{\mathrm{OFF}}\)は
\begin{align}
K_{\mathrm{OFF}}&=V_{\mathrm{L}}IT_{\mathrm{OFF}}\\
&=V_{\mathrm{R}}IT_{\mathrm{OFF}}\\
\end{align}
となります。
1 周期で等式を立てる
1周期\(T(=T_{\mathrm{ON}}+T_{\mathrm{OFF}})\)で考えると、コイルに蓄えられるエネルギー\(K_{\mathrm{ON}}\)とコイルから放出されるエネルギー\(K_{\mathrm{OFF}}\)は等しくなります(コイルにエネルギーが溜まり続ければやがて発散するため、定常状態では入出が釣り合います)。
\begin{align}
K_{\mathrm{ON}}&=K_{\mathrm{OFF}}\\
(E-V_{\mathrm{R}})IT_{\mathrm{ON}}&=V_{\mathrm{R}}IT_{\mathrm{OFF}}\\
ET_{\mathrm{ON}}&=V_{\mathrm{R}}(T_{\mathrm{ON}}+T_{\mathrm{OFF}})\\
V_{\mathrm{R}}&=\frac{T_{\mathrm{ON}}}{T_{\mathrm{ON}}+T_{\mathrm{OFF}}}E\\
&=\frac{T_{\mathrm{ON}}}{T}E\\
\end{align}
\(0 \leqq \frac{T_{\mathrm{ON}}}{T} \leqq 1\) ですから、出力電圧\(V_{\mathrm{R}}\)は入力\(E\)以下となります。これで「降圧チョッパ」だと判別できました。
昇圧チョッパ:OFF のときに電源とコイルが直列で出力する型
このような図が問題で与えられたとします。
スイッチが ON のとき
スイッチが ON のとき、電源はコイルだけに電力を供給します(負荷側はダイオードで切り離されます)。
時間\(T_{\mathrm{ON}}\)の間にコイルに蓄えられるエネルギー\(K_{\mathrm{ON}}\)は
\begin{align}
K_{\mathrm{ON}}=EIT_{\mathrm{ON}}\\
\end{align}
となります。
スイッチが OFF のとき
コイルは蓄えたエネルギーを放出するので、電圧の方向が電源と同じ向きになります。つまり
\begin{align}
V_{\mathrm{R}}&=E+V_{\mathrm{L}}\\
\end{align}
が成り立ち、コイルが放出するエネルギー\(K_{\mathrm{OFF}}\)は
\begin{align}
K_{\mathrm{OFF}}&=V_{\mathrm{L}}IT_{\mathrm{OFF}}\\
&=(V_{\mathrm{R}}-E)IT_{\mathrm{OFF}}\\
\end{align}
となります。
1 周期で等式を立てる
1周期\(T(=T_{\mathrm{ON}}+T_{\mathrm{OFF}})\)で\(K_{\mathrm{ON}}=K_{\mathrm{OFF}}\)を立てます。
\begin{align}
K_{\mathrm{ON}}&=K_{\mathrm{OFF}}\\
EIT_{\mathrm{ON}}&=(V_{\mathrm{R}}-E)IT_{\mathrm{OFF}}\\
E(T_{\mathrm{ON}}+T_{\mathrm{OFF}})&=V_{\mathrm{R}}T_{\mathrm{OFF}}\\
V_{\mathrm{R}}&=\frac{T_{\mathrm{ON}}+T_{\mathrm{OFF}}}{T_{\mathrm{OFF}}}E\\
&=\frac{T}{T_{\mathrm{OFF}}}E\\
\end{align}
\(1 \leqq \frac{T}{T_{\mathrm{OFF}}}\) ですから、出力\(V_{\mathrm{R}}\)は入力\(E\)以上となり、「昇圧チョッパ」だと判別できます。
昇降圧チョッパ:スイッチの ON/OFF 比で昇圧・降圧が切り替わる型
このような図が問題で与えられたとします。
スイッチが ON のとき
昇圧チョッパと同様に、時間\(T_{\mathrm{ON}}\)の間にコイルに蓄えられるエネルギー\(K_{\mathrm{ON}}\)は
\begin{align}
K_{\mathrm{ON}}=EIT_{\mathrm{ON}}\\
\end{align}
となります。
スイッチが OFF のとき
コイルが放出するエネルギー\(K_{\mathrm{OFF}}\)は
\begin{align}
K_{\mathrm{OFF}}&=V_{\mathrm{L}}IT_{\mathrm{OFF}}\\
&=V_{\mathrm{R}}IT_{\mathrm{OFF}}\\
\end{align}
となります。
1 周期で等式を立てる
\begin{align}
K_{\mathrm{ON}}&=K_{\mathrm{OFF}}\\
EIT_{\mathrm{ON}}&=V_{\mathrm{R}}IT_{\mathrm{OFF}}\\
V_{\mathrm{R}}&=\frac{T_{\mathrm{ON}}}{T_{\mathrm{OFF}}}E\\
\end{align}
この式は、ON時間とOFF時間の比で出力電圧が決まる形になっています。
- \(T_{\mathrm{ON}} \geqq T_{\mathrm{OFF}}\)(ON の時間が長い)→ \(\frac{T_{\mathrm{ON}}}{T_{\mathrm{OFF}}} \geqq 1\) → 昇圧
- \(T_{\mathrm{ON}} \lt T_{\mathrm{OFF}}\)(OFF の時間が長い)→ \(\frac{T_{\mathrm{ON}}}{T_{\mathrm{OFF}}} \lt 1\) → 降圧
つまりスイッチの ON/OFF 比で昇圧と降圧の両方を実現できる、これが「昇降圧チョッパ」です。
3 種類のチョッパまとめ:共通の 3 ステップで導出できる
3種類のチョッパは、結局すべて
- ON のときにコイルに蓄えるエネルギー\(K_{\mathrm{ON}}\)を求める
- OFF のときにコイルが放出するエネルギー\(K_{\mathrm{OFF}}\)を求める
- 1周期で \(K_{\mathrm{ON}}=K_{\mathrm{OFF}}\) を立てて\(V_{\mathrm{R}}\)について解く
という共通フォーマットで導出できました。導出後の式を見て、出力電圧\(V_{\mathrm{R}}\)が入力\(E\)以下なら降圧、以上なら昇圧、両方取りうるなら昇降圧と判別すれば、「どの公式がどれだったか」を試験本番で思い出す必要はなくなります。
なお、ここまでの導出は電験 2 種レベルの理解です。電験 3 種でも昇圧・降圧チョッパの公式は出題されますが、「なぜそうなるか」を電験 2 種の視点で押さえておくと、3 種の問題でも公式を取り違えずに解けるようになります。
パワエレの完結編もあります。次はサイリスタ位相制御へ進みます。








ケンタさんおはようございます!
とてもわかりやすいです!
ありがとうございますm(_ _)m
導出から覚えていくというのが興味深かったです。
この記事ではありませんが、コイルに磁石を近づけると電力が発生するなども、導出というか、腑に落ちるまで理解できておくと忘れにくいですよね。
ありがとうございました!
>やまさきさん
コメントありがとうございます。
わかりやすいと言っていただけると素直に嬉しいです。
2日連続の受験頑張ってください!
こんにちは
私が3種を受験したときは、ひたすら公式を丸暗記して答えを求めていました。
それで偶々合格できましたが、電気の本質は全く理解できていません。
2種の場合、公式の導出に関する考え方も求められる様なので、ケンタさんが言われる通り2種を勉強すると電気の事をより理解できると思うし、そうなれば勉強の苦労が理解できる喜びに変わるのかもしれません(とはいっても難解すぎてどこから手を付けて良いかもわかりません。微積分も底なし沼らしいので、電験用に特化しないと)
3種(高校用)と2種(大学用)の違いのように、微積分も高校は公式に当てはめて
答えを求めるけど、大学では本質に近付く為公式の導出から学ぶと聞きました。
いきなり難しい2種の参考書も、今回のケンタさんのように、簡単な図から丁寧に説明してもらえると分かり易いのですが、そうなるとページ数が膨大になるから難しいのかもしれませんね。
何時も、図や公式を描くのに苦労されていると思いますが、
記事をあげて頂いてありがとうございます。
>カモカモさん
コメントありがとうございます!
大学の微積分学では、ε-δ論法(イプシロン-デルタ論法)という周りくどい証明を延々としていた思い出があります。
もうさっぱり忘れてしまいましたが笑
2種の参考書については、私も難解に書いているなぁという印象がありました。
ですので、今回は理解の助けとして私が参考書の余白に書いていた図を持ってきました笑
(一度図を書いてしまえば、コピペ+マイナーチェンジで時間を幾分省略できます笑)
こういった参考書までの橋渡しができるような記事を書いていこうと思います。
これからもおつきあい下さい!
まずタイトル画像で吹きました(笑)
そしてチョッパ回路の公式の導出ですが、私含め多くの3種受験者にとって
ブラックボックスになっている部分を非常に分かりやすく解説して頂いており
すごく良かったです!
実は3種の理論過去問でもパワエレっぽい内容の穴埋め問題が出ており
詳しくは覚えていませんがこの導出内容と似た雰囲気でした!
なので3種受験者も理想的にはここまで理解しておく必要があると思います。
受験前にこの記事を拝見することができ助かりました。
ありがとうございました!
>レベル4さん
コメントありがとうございます!
過去問でこの導出が出たことあったんですね。
知りませんでした。
次は過去問を2問ほど記事にしてみます。
しばしお待ちを!
式の導出が非常に分かりやすかったです。
わざわざ公式を覚えなくても導出の仕方さえ分かっていれば本番でも使えるため参考にさせていただきます。
コメントありがとうございます!
個人的には原理や導出(難しければこじつけでも可)ならば覚えやすいのではないかと思っています。このように,できるだけ丸暗記を避けて学習を進めてくだされば!