電験3種

AI時代でも電験の価値は変わらない理由|現役保安管理者が語る資格需要の実態

皆さまお疲れさまです。ケンタ(@den1_tanaoroshi)です。

ChatGPTをはじめとするAIの台頭で、「電験の資格って将来的に意味があるの?」「AI に仕事を取られてしまうのでは?」という声を耳にするようになりました。電験の勉強を始めようとしている方や、すでに受験中の方にとっては気になるテーマのはずです。

結論から言えば、電験の需要はAIによってすぐに変わることはないと私は見ています。電気保安に携わる者として、現場の肌感覚から整理してみます。

AIが「電験の業務」に入り込んできていること

AIが電気設備の保安業務にまったく影響を与えていないか、といえばそういうわけではありません。実際、以下のような領域でAIや自動化技術の活用が進んでいます。

  • 異常検知・予兆保全:センサーデータをAIが学習し、機器の劣化や不具合を早期に検出する
  • 遠隔監視の高度化:IoTと組み合わせた24時間リアルタイムモニタリング
  • 報告書・記録作成の補助:点検結果の定型入力や書類自動作成
  • データ集計・分析:大量の計測データをAIが整理・可視化

業務効率化という面では、AIは確実に電験業界にも浸透してきています。ただし、ここで注意が必要です。AIが「業務を効率化する」ことと、「資格が不要になる」ことはまったく別の話です。

AIがビルメンの仕事をどこまで代替するのかは、AIにビルメンは駆逐されてしまうのか!?でも詳しく考えています。

電気保安業界のボトルネックは「免許者の数」

電気保安の世界には、電気主任技術者制度があります。一定規模以上の電気設備を持つ事業場は、電気主任技術者を選任するか、外部に委託することが電気事業法で義務づけられています。

この制度で重要なのが「点数制度」です。保安管理業務の外部委託では、1人の電気主任技術者が担当できる事業場に上限(点数)が設けられています。

つまり、どれだけAIが高度化しても、「この事業場の保安を法的に担当できる者」は電気主任技術者免許を持つ人間でなければならないのです。AIは免許を取得することができません。

なお、こうした外部委託の点数制度そのものも、規制緩和の議論が続いています。制度の行方は【規制緩和】電気保安業界の大変革に待ったなし?で整理しています。

業界の人材不足は続いている

電気主任技術者の高齢化が進んでいます。電気管理技術者(電気主任技術者として独立した保安業務の従事者)の平均年齢は60歳超とも言われており、若手の参入が追いついていないのが業界の実情です。

AI保安(IoT・センサーと組み合わせた遠隔保安)の普及により、将来的には1人の技術者が担当できる点数の上限が拡大される(または必要点数が圧縮される)可能性があります。しかし、「担当できる技術者の絶対数が足りない」という構造的な問題は、現時点では解消されていません

ケンタ
ケンタ
むしろ、IoT機器の導入が加速するほど、設備の複雑さが増して「電気を深く理解した免許者」の重要性は高まる可能性すらあります。

こうした状況を受けてか、電気主任技術者への社会的注目は高まっています。NHKの報道番組「クローズアップ現代」では、AI時代に価値・収入が急上昇する技術系専門職として「ブルーカラービリオネア」という特集が組まれ、電気主任技術者もその事例として紹介されました(NHKクローズアップ現代 公式Xより)。権威ある報道番組に取り上げられたことは、資格の社会的価値が広く認められてきている証左と言えるでしょう。

資格の価値を守る「法規制」という防波堤

電気保安の仕組みは電気事業法で規定されています。AIが電気主任技術者の役割を完全に代替するには、この法規制そのものを変える必要があります。法規制の変更は政策論議・国会審議が必要で、短期間には起こりません。

電験の資格価値が変わりにくい3つの理由

  1. 電気事業法による「選任義務」が存続している
  2. AIは免許を取得・保有できず、法的責任も負えない
  3. 業界の慢性的な人材不足が有資格者への需要を支えている

少なくとも今から5〜10年の単位で見れば、電験の資格価値は制度的に保護されていると言ってよいでしょう。

今こそ過去問で基礎を固める意味

AI時代に電験の価値が変わらないとすれば、今取り組む意義はむしろ大きいと言えます。電験の試験は基礎的な電気工学の理解を問うものであり、その知識はどんな技術革新が来ても陳腐化しません。IoT機器や電力変換装置の仕組みを理解するうえでも、電験で培った知識は直接役立ちます。

過去問を繰り返し解くことで、電気回路・機器・電力・法規の体系的な理解が身につきます。当ブログが編集に携わっている過去問徹底解説シリーズは、過去22回分を1冊に収録し、4科目セットで2,180円という価格で提供しています。

AIが進めるのは「労働移動」── そのとき保安管理者はどう動くか

ここまでは「電験の資格価値は法律で守られている」という制度の話をしてきました。ここではもう一歩踏み込んで、AIが労働市場全体に何を起こすのかという視点から、保安管理者の将来を考えてみます。

参考になるのが、宮本弘之氏の著書『AI大格差』で示されている見立てです。要点はシンプルで、次のように整理できます。

『AI大格差』が示す3つのポイント

  1. IMFの試算では、先進国の雇用の約6割がAIの影響を受けるとされる
  2. 影響の出方は職種で正反対。事務・法務・オフィス支援などのホワイトカラー業務は代替されやすい一方、ビルの清掃・メンテナンス・対面や身体を使う仕事は残りやすい
  3. これまでの機械化が「肉体労働」を置き換えてきたのに対し、今回のAIは初めて「知的労働」に入り込んできたという歴史的な逆転が起きている

ここで電気保安業務を当てはめると、その立ち位置がはっきりします。保安管理は現地に足を運び、設備に触れ、目と手で異常を判断する仕事です。報告書作成やデータ整理といった「ホワイトカラー的なタスク」はAIに任せられても、点検・判断・現場対応という中核は、AIが置き換えにくい側に分類されます

「労働移動」は起きる。ただし保安管理へはすぐ流れ込めない

宮本氏が強調するもう一つのポイントが、労働移動です。AIで一部の仕事が陳腐化しても、新しい仕事が生まれ、人がそこへ移っていけるかが社会の鍵になる──という議論です。実際、2018年のアメリカの就業者の約6割は、1940年には存在しなかった仕事に就いている、というデータも紹介されています。

では、AIで職を追われたホワイトカラーは、人手不足の電気保安業界へ移ってくるのでしょうか。

結論から言うと、すぐには来ません。なぜなら、保安管理者には資格という大きな参入障壁があるからです。電験三種でも合格まで数年がかりは珍しくなく、実務経験を積んで電気管理技術者として独立するには、さらに年単位の時間がかかります。「明日から保安管理者になる」ことは制度上できないのです。

そのため、AIによる労働移動は、まず参入障壁の低い業種へ先に向かいます。具体的には、次のような職種が考えられます。

  • 物流・配送ドライバー(人手不足が慢性化し、すぐ働き始められる)
  • 介護・福祉(対面・身体性が必要で、AIに代替されにくい)
  • 清掃・ビルメンテナンス(前述のとおりAIが残すと予測される領域)
  • 警備・施設管理
  • 建設・現場作業

いずれも「資格のハードルが低く、対面・身体的でAIに奪われにくい」という共通点を持ちます。労働移動の波は、まずこうした入り口の広い職種へ流れ込むと考えられます。

障壁があることが、保安管理者にとっては「追い風」になる

この構図を保安管理者の側から見ると、見え方が変わります。参入障壁が高いということは、AIで職を失った人材が大量に流入して供給過剰になる、という事態が起きにくいということです。保安管理者の価値は、次の三重の防壁に支えられています。

保安管理者を支える「三重の防壁」

  1. 中核業務はAIに代替されにくい(残りやすい職種)
  2. 法律で免許者でなければ担当できない(制度の防壁)
  3. 資格の壁が高く、労働移動による供給急増が起きにくい(参入障壁の防壁)

AI時代に「希少性」がどこに残るかを考えたとき、保安管理者はむしろ有利なポジションにいます。もちろん、AGI(汎用人工知能)が想定以上の速さで進歩すれば、賃金や雇用の前提そのものが揺らぐシナリオもあり得ます。それでも、法規制と資格障壁という二つの壁を同時に乗り越えてくる変化は、そう簡単には起きません。だからこそ今、時間をかけてでも資格という壁の「内側」に入っておく価値があるのです。

ケンタ
ケンタ
正直に言うと、いち保安管理者としては少し複雑な気持ちもあります。参入障壁を越えた大量流入で保安管理者の人手不足が解消されるより先に、AIが生み出す新しい業種への“再移動”が進んでくれることを、ひそかに祈っています。資格の価値が守られつつ、職を移る人も次の受け皿にうまく吸収される——そんな循環が理想ですね。

まとめ:AIは電験の「競合」ではなく「道具」

  1. AIは電験業務を効率化するが、免許要件を消すことはできない
  2. 点数制度の存在が、電気主任技術者の需要を構造的に保護している
  3. 業界の人材不足はAI普及後も続く見込みで、有資格者の価値は高止まりしやすい
  4. 電験の知識はAI時代の設備管理にも直結する基礎力
  5. 保安管理は現場での点検・判断が中核でAIに代替されにくく、資格という参入障壁ゆえに労働移動による供給過剰も起きにくい(中核業務・法規制・参入障壁の「三重の防壁」)

電験取得を目指している方にとって、AIの登場は障害ではなく追い風になると私は見ています。引き続き当ブログをよろしくお願いいたします!

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