皆さまお疲れさまです。ケンタ(@den1_tanaoroshi)です。
誘導電動機の計算問題は、二次入力・機械的出力・二次銅損の比さえ出せればほとんど解けます。この比を \( 1:(1-s):s \) と丸暗記している方も多いようです。
ただ、覚えておくべきものはこの比ではありません。等価回路さえ頭に入っていれば、3つの電力は掛け算と引き算だけで出てきます。
本記事では等価回路を出発点にして、3つの電力と比、そしてトルクまでを一続きで求めます。最後に平成29年度 問3と令和2年度 問15で、実際の出題にそのまま使えることを確認します【PR】。
📌 この記事でわかること
- ✓ 誘導電動機の一相分・一次側から見た等価回路(覚えるのはこれだけ)
- ✓ 二次入力と二次銅損を掛け算で、機械的出力を引き算で出す手順
- ✓ 比 \( P_{2}:P_{\mathrm{o}}:P_{\mathrm{c2}}=1:(1-s):s \) の出し方
- ✓ トルク \( T=\dfrac{P_{2}}{\omega_{\mathrm{s}}} \) と、二次入力の別名「同期ワット」の意味
- ✓ 平成29年度 問3・令和2年度 問15での使い方と、定格出力をそのまま答えにしてしまう落とし穴
覚えるのは等価回路ひとつだけ
出発点はこの回路です。三相誘導電動機の一相分を、一次側から見た形で表したものになります。
二次側の量は、すべて一次側に換算した値です。記号に付いたダッシュがその印になります。
\( V_{1} \) : 一次電圧 → 一相分の値
\( r_{1} \)・\( x_{1} \) : 一次巻線の抵抗と漏れリアクタンス
\( x_{2}’ \) : 二次側の漏れリアクタンス → 一次側に換算した値
\( \dfrac{r_{2}’}{s} \) : 二次抵抗を一次側に換算し、すべり \( s \) で割ったもの
回転していることの影響は、すべて \( \dfrac{r_{2}’}{s} \) の1箇所に押し込まれています。残りの要素は回転と無関係で、負荷が変わっても動きません。
なぜ \( s \) で割るのかは導出できますが、試験中に組み立て直す種類のものではありません。回路の形ごと覚えてしまうほうが速く、間違えません。
すべり \( s \) と同期速度 \( N_{\mathrm{s}} \ \mathrm{[min^{-1}]} \) の定義も併せて置いておきます。
\[
\begin{aligned}
N_{\mathrm{s}} &= \frac{120f}{p} \\
s &= \frac{N_{\mathrm{s}} – N}{N_{\mathrm{s}}} \quad \Longrightarrow \quad N = (1-s)N_{\mathrm{s}}
\end{aligned}
\]
回路が直列なので、電流はインピーダンスで割るだけです。
\[
\begin{aligned}
I_{2}’ &= \frac{V_{1}}{\sqrt{\left( r_{1} + \dfrac{r_{2}’}{s} \right)^{2} + \left( x_{1} + x_{2}’ \right)^{2}}}
\end{aligned}
\]
3つの電力は掛け算と引き算で出る
電力を消費するのは抵抗だけで、リアクタンスは消費しません。二次側で電力を消費するのは \( \dfrac{r_{2}’}{s} \) だけなので、ここでの消費が二次入力になります。
\[
\begin{aligned}
P_{2} &= {I_{2}’}^{2}\cdot\frac{r_{2}’}{s}
\end{aligned}
\]
一方、二次巻線で実際に発熱するのは現物として存在する抵抗 \( r_{2}’ \) の分だけです。これが二次銅損になります。
\[
\begin{aligned}
P_{\mathrm{c2}} &= {I_{2}’}^{2}r_{2}’
\end{aligned}
\]
残りは熱にならず、軸から出ていきます。機械的出力は、二次入力から二次銅損を引くだけで出ます。
\[
\begin{aligned}
P_{\mathrm{o}} &= P_{2} – P_{\mathrm{c2}} \\
&= {I_{2}’}^{2}r_{2}’\left( \frac{1}{s} – 1 \right) \\
&= {I_{2}’}^{2}r_{2}’\cdot\frac{1-s}{s}
\end{aligned}
\]
3つとも \( {I_{2}’}^{2}r_{2}’ \) を共通に持っているので、比をとると電流も抵抗も消えます。
\[
\begin{aligned}
P_{2}:P_{\mathrm{o}}:P_{\mathrm{c2}} &= \frac{1}{s}:\frac{1-s}{s}:1 \\
&= 1:(1-s):s
\end{aligned}
\]
これが目的の比です。三相分ならすべて3倍になりますが、3倍は3項に等しくかかるので比は変わりません。
\( P_{2} \) : 二次入力 → 回転子へ電気として入る電力\( P_{\mathrm{o}} \) : 機械的出力 → 軸から出ていく電力
\( P_{\mathrm{c2}} \) : 二次銅損 → 二次巻線で熱になる電力
二次銅損が「抵抗 × 電流の2乗」の形をしている点は、変圧器の銅損とまったく同じ構造です。負荷で変わる損失と変わらない損失の切り分けについては、鉄損は一定・銅損は電流の2乗に比例する理由で変圧器を題材に整理しています。
トルクも同じ等価回路から出る
比が出たので、トルクもここから求められます。新しく持ち出す式はありません。
軸から出ていく機械的出力 \( P_{\mathrm{o}} \) は、トルク \( T \ \mathrm{[N\cdot m]} \) と実際の角速度 \( \omega \ \mathrm{[rad/s]} \) の積です。角速度のほうは \( N = (1-s)N_{\mathrm{s}} \) から書き換えられます。
\[
\begin{aligned}
P_{\mathrm{o}} &= T\omega \\
\omega &= \frac{2\pi N}{60} = (1-s)\omega_{\mathrm{s}}
\end{aligned}
\]
先ほどの比から \( P_{\mathrm{o}} = (1-s)P_{2} \) なので、両方を代入して \( T \) について解きます。
\[
\begin{aligned}
T &= \frac{P_{\mathrm{o}}}{\omega} = \frac{(1-s)P_{2}}{(1-s)\omega_{\mathrm{s}}} = \frac{P_{2}}{\omega_{\mathrm{s}}}
\end{aligned}
\]
分子と分母の \( 1-s \) が約分されるので、トルクは実際の回転速度を使わずに求められます。単位も確認しておきます。\( \mathrm{W} \) を \( \mathrm{rad/s} \) で割ると \( \mathrm{(J/s)}\times\mathrm{(s/rad)} = \mathrm{J} \) となり、\( \mathrm{rad} \) は無次元なので \( \mathrm{N\cdot m} \) に一致します。
補足:「同期ワット」は二次入力の別名
- 平成29年度 問3の問題文に「誘導機の二次入力は同期ワットとも呼ばれ,トルクに比例する」とある(解説)
- 平成24年度 問3では「同期速度と電動機トルクとで計算される同期ワット(二次入力)は,二次銅損と電動機出力との和となる」が正しい記述として出題されている(解説)
- 式にすると \( P_{2} = \omega_{\mathrm{s}}T \)である。\( \omega_{\mathrm{s}} \) は電源周波数と極数だけで決まる定数なので、\( P_{2} \) はトルクに比例する
- 「ワット」と付くのは、トルクを \( \mathrm{N\cdot m} \) ではなくワットの値で言い表すため。トルクの大きさを出力のかわりに二次入力で示す言い方で、英語では synchronous watt という
- そのため\( P_{2} \) の値を読めば、そのままトルクの大小が分かる。トルクを直接問われなくても、二次入力の形で問われることがある
- 平成28年度 問4はこれを直接使う出題。\( 50 \ \mathrm{Hz} \)・6極・トルク \( 200 \ \mathrm{N\cdot m} \) から \( \omega_{\mathrm{s}} ≒ 104.72 \ \mathrm{[rad/s]} \) を出し、\( P_{2} = \omega_{\mathrm{s}}T ≒ 21 \ \mathrm{[kW]} \) が答えになる(解説)
問題文に「同期ワット」と出てきたら二次入力 \( P_{2} \) のことだと読み替えられれば十分です。なお同期電動機・同期発電機とは無関係で、名前に出てくる「同期」は、平成24年度 問3の文言どおり同期速度を指しています。
実際の出題で確かめる
求めた比が出題でそのまま効くことを、電験3種の過去問2つで確認します。
平成29年度 機械 問3(空欄穴埋め)
二次入力が「同期ワット」と呼ばれること、機械的出力と二次銅損の比が \( (1-s):s \) になることを直接問う問題です。
この問題は後半で、すべりが \( -1 \) と \( 0 \) の間にあるときに機械的出力が負となり、発電機として運転されることまで問われます。これも \( P_{\mathrm{o}} = {I_{2}’}^{2}r_{2}’\dfrac{1-s}{s} \) の形を見れば納得できます。\( s \) が負なら \( \dfrac{1-s}{s} \) も負になり、軸から出るはずだった電力の向きが逆転するためです。
令和2年度 機械 問15(a)(計算)
定格出力 \( 45 \ \mathrm{kW} \)、そのときのすべりが \( 2 \ \mathrm{[\%]} \) の三相誘導電動機について、二次入力を求める問題です。比 \( P_{2}:P_{\mathrm{o}} = 1:(1-s) \) をそのまま使います。
\[
\begin{aligned}
P_{2} &= \frac{P_{\mathrm{o}}}{1-s} = \frac{45}{1-0.02} ≒ 45.9 \ \mathrm{[kW]}
\end{aligned}
\]
答えはおよそ \( 46 \ \mathrm{kW} \) となります。定格出力の \( 45 \ \mathrm{kW} \) をそのまま選びたくなりますが、二次入力は二次銅損のぶんだけ出力より大きくなります。
この論点は20年近く出続けている
誘導機の二次入力・二次銅損・トルクの関係は、単発の細かい論点ではありません。平成18年度 問16から令和7年度上期の問4・問15まで、20年近くにわたって形を変えながら繰り返し出題されています。令和6年度下期の問4でも二次銅損の導出が問われました。
だからこそ、等価回路を1つ覚えておく費用対効果が高い単元となります。過去問を何周しても伸びないと感じているときの原因と対処は、過去問を何周しても一向に点数が上がらないときにまとめてあります。機械科目全体の優先順位は電験三種 機械の過去問攻略を参考にしてください。
同じ論点が年度をまたいで問われ方をどう変えているかは、解説付きの過去問をまとめて並べてみると見えてきます。収録範囲などの詳細は商品ページでご確認ください。
まとめ
- ✓ 覚えるのは一次側から見た等価回路ひとつ。回転の影響は \( \dfrac{r_{2}’}{s} \) の1箇所だけに入っていて、残りは負荷が変わっても動かない
- ✓ 電力を消費するのは抵抗だけ。二次入力は \( P_{2}={I_{2}’}^{2}\dfrac{r_{2}’}{s} \)、二次銅損は実在する \( r_{2}’ \) の分で \( P_{\mathrm{c2}}={I_{2}’}^{2}r_{2}’ \)
- ✓ 機械的出力は引き算で \( P_{\mathrm{o}}=P_{2}-P_{\mathrm{c2}}={I_{2}’}^{2}r_{2}’\dfrac{1-s}{s} \)。比をとると \( 1:(1-s):s \)
- ✓ \( \omega=(1-s)\omega_{\mathrm{s}} \) を \( P_{\mathrm{o}}=T\omega \) に入れると \( 1-s \) が約分され \( T=\dfrac{P_{2}}{\omega_{\mathrm{s}}} \)。二次入力は「同期ワット」とも呼ばれ、トルクに比例する(平成29年度 問3の問題文)。\( P_{2} = \omega_{\mathrm{s}}T \) なので、\( P_{2} \) の値を読めばトルクの大小が分かる
- ✓ 二次入力は出力より二次銅損のぶん大きい。令和2年度 問15(a)では \( \dfrac{45}{1-0.02} ≒ 46 \ \mathrm{kW} \)
誘導機で覚えることは、等価回路の形ひとつだけです。そこから先は、抵抗に電流の2乗を掛けて電力を出し、引き算で機械的出力を求めるだけとなります。比もトルクも、その場で作り直せます。
問題を解いていて手が止まったときは、まず等価回路を書いてみてください。3つの電力はそこから順に出てきます。引き続き当ブログをよろしくお願いいたします!
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