皆さまお疲れさまです。ケンタ(@den1_tanaoroshi)です。
先日10/20は電験の合格発表日でしたね。
合格された方はおめでとうございます!!電験1・2種の方はこれからが本番ですが、自己採点結果に間違いがないことがわかり、ひとまず安心できたのではないでしょうか。
さて、今日はここから一段とギヤを上げて準備をしていくことになろう二次試験の、特に電験2種について、読者の方から質問をいただきましたので、回答したこと記事にして皆さんにも一緒に考えていただこうと思います。
二次試験の計算問題についての質問
電験2種の電力・管理問題で頻出の、送配電問題についての質問でした。
質問の背景
送電電圧\(\dot V_\mathrm{s}\)と受電電圧\(\dot V_\mathrm{r}\)の関係式で
\begin{align}\dot V_\mathrm{s}=\dot V_\mathrm{r}+\sqrt 3 \dot Z \dot I\\ \end{align}
というのがありますよね。これはベクトル量での公式ですので、実際の計算では複素計算をしなければならなく、膨大な量の計算が必要になってきます。行う計算自体は四則演算の範囲ですので難しくはないものの、実数部と虚数部を考慮しながらの計算となりますので、如何せん計算ミスをしがちで受験生泣かせの問題かと思います。裏を返すと、その計算ミスさえしなければ得点源となりえますので、対処できるのならばなんとかしておきたいものです。
計算ミスを無くすのは「慣れ」しかないと思っていますが、膨大な計算を回避する根本的な方法があります。それは近似式を使用することです。先程の公式に対応する近似式は以下となります。
\begin{align}V_\mathrm{s}=V_\mathrm{r}+\sqrt 3 I(R\cos\theta +X\sin\theta)\\ \end{align}
これを使うと実数のみの計算となりますので、時間の短縮と計算ミスの抑制を狙えます。
以上の背景をふまえて
質問の要点は、平成19年度問4の分散電源の問題について「この近似式をいつも使って良いのか?」というものでした。私も同じ疑問を持ったことがありましたので、質問者さんの気持ちがわかります笑
ちなみに…
余談ですが、送配電問題以外にも二次試験には近似式が出てきます。例えば、%インピーダンスを使った変圧式の電圧変動率
\begin{align}\Delta V/V_\mathrm{r}=\%p\cos\theta +\%q\sin\theta\\ \end{align}
です。こういった近似式が使えるのか?というのも同じような話ですので、こちらも話の対象として以下の話を読み進めていって下さい。
加えて、電圧変動率は近似式がもう1つありますね。それは
\begin{align}\Delta V/V_\mathrm{r}=\%p\cos\theta +\%q\sin\theta+\frac{(\%p\sin\theta -\%q\cos\theta)^2}{200}[\mathrm{p.u.}]\\ \end{align}
です。
\(\frac{(\%p\sin\theta -\%q\cos\theta)^2}{200}\)の分だけ精密式に近い値となります。
電圧変動率の式の中で1番精密な式でも、電験では抵抗を無視して良いという条件がついて、
\begin{align}\dot V_{20}=\dot V_{\mathrm{2n}}+\mathrm{j}\sqrt 3 X\dot I\\ \end{align}
となります。条件や数値によってまちまちですが、\(200\)ありの近似式は精密式と約\(0.2\%\)くらいずれます。
\(200\)がないと約\(3.6\%\)くらいです。結構ずれるんですね。
近似式を使えるかの一般的な判断基準
正直なところを言うと、試験センターが正答指針を公表していないので何とも言えないです。
いきなり結論を書いてしまいました笑 これだけだと寂しいので、もう少しこの結論に至った言い訳過程を書いていきます。
そもそも
\begin{align}V_\mathrm{s}=V_\mathrm{r}+\sqrt 3 I(R\cos\theta +X\sin\theta)\\ \end{align}
の簡略式が明確に使えるようになるには、\(V_\mathrm{s}\)と\(V_\mathrm{r}\)の位相差を無視できるような条件が必要です。具体的には
- \(\dot V_\mathrm{s}\)と\(\dot V_\mathrm{r}\)の位相差を無視して良い
- (送電問題では)短距離送電である
に近いという文章が必要です。
ただ、このような明確な文章が記載されることがない場合が結構ありますので、そのときは下の方に書く戦略的な判断が必要になってきます。
今回は基準を満たすのか?
平成19年度問4の問題文を読む限り、近似式が使えるか判然としません。使えないとも書いていませんし。
試験センターが公式見解を出してくれれば1番なのですが、そういったものを見たことはありません。問題用紙の最初の方に有効数字とかの「お約束」が書いてあるだけです。
試験センターの公式解答があれば使ってよかったのか?ということが分かるものの、年度が古いためHPに存在していなく時既に遅しです。……かと思いましたが、類題の模範解答を見ればなんとかなるのではないかと思い、探してみました。
今回は配電線路の電圧降下の問題です。その中でも、近似式を使って良い的な表現が見当たらなかった問題は、ざっと見たところ、
が類題にあたりそうです。その解答では、
平成21年度は近似式を使っていて、平成26年度は近似式を使っていませんでした。
やはり、何とも言えなそうですね。
ということで結局のところ、
戦略的には近似式を使ったほうが良いのか?
質問者の方は精密式を使った場合の計算ミスを心配されていて、近似式を使えるなら使いたいというお考えでした。確かにその気持は分かります!
というか、立式してしまえばあとは解くだけですから、立式までの得点ウェイトを上げてほしいですよね。これからの時代は、計算なんて機械にやらせればいいんです笑 人間は独創性のあることに力を注がないといけません!
真面目な話をすると、個人的には、近似式を使った場合の減点量が不明確な限りは、他の問題の出来との兼ね合いで近似式を選ぶかどうか考えます。
どういうことかというと、完答しても最悪5割くらいになってしまうことを考慮しないといけません。(もしかしたら5割いかないかも?やはり何ともいません。)
他の問題で十分点数を稼げている状態であれば、総合得点率の足を引っ張らない程度に近似式を使って得点を稼ぐ方を選びますが、二次試験でそういった状況は稀だと思いますので、結局は特別な場合を除いて私なら精密式を選ぶと思います。
なお、今回の問題で精密式を使うと4次方程式を解くことになりますが、やっていることは2次方程式の解の公式と同じですので、何とかミスせずに解けるようにしておきたいものです。確実な計算にどのくらい試験時間を割くかは、試験本番で焦らないためにも一度ご自身でよく考えておいて下さい。
↓で二次試験の時間の使い方を記事にしていますので、参考にして下さい。
ちなみに、計算ミスを無くすには、やはり愚直に計算に慣れていくしかないです。計算しているときは、色々なことに気を配りながらの平行作業になりますので、電卓の機能を使う方に頭のメモリをあまり割かないくらいのレベルに持っていくことが望ましいです。
まとめ
今回の記事については皆さん思うところが多いと思います。
明示されていない時の近似式の使用可否について、試験センターの公式情報でも大手出版社の情報でも持っている方がいらしたら、是非コメントをよろしくお願いします。情報をお持ちでなくても、ご自身の考えを教えていただけるだけでも参考になります。
久し振りに長文の記事を書きました笑
それでは次回!
平成21年度 問2 → 配電線 → 近似式可
平成26年度 問4 → 送電線 → 近似式不可
だからだと思います。
とは言え、題意にない限りは二次試験で近似式を使う勇気はないですが…。
>ひとリストさん
コメントありがとうございます!
すみません、平成26年度の問題と言いながら、平成25年度問4の送電問題のリンクを張っていました笑
リンク修正しましたので、平成26年度問4の配電問題をご確認下さい。
平成26年度問4は近似を使っていないのを確認しています。
こんばんは。
近似式を使いたい派ですが、題意通り解答するしかなさげですね。
なんせ試験時間が短すぎるのが、我々にとって一番辛いですね。書かれている通り、普通電卓での計算練度も必要なんですね。
2〜3,000名の答案を(たぶん)ほんの数名の採点者がさばくんでしょうから、いちいち手間かけて答案見ないですよね。
まず、完璧に正答されているものについて満点加点で、柔道で言うところの「効果・有効」っぽい答案は補欠として仕分けておいて、目標合格者数に至らない場合 救済・部分点加点作業に入るのかなぁ。
例外な有効数字桁数を指示する設問がある点から察すると、「近似式でも良い」と言うただし書きがない限りはアウトかなぁ。
ダメ元でセンターに聞いてみようかな。っとは思うものの相手は事務方だから、話が通じないかなぁ (涙目
毎度、ためになる記事をありがとうございます。
>梅三郎さん
コメントありがとうございます!
確かに採点でのふるい分けはやっていそうですね。
公式解答で、『これが書けていれば何点』みたいなものがあれば、受験者もいくらか対応しやすいのかと思うのですが。
こんばんは。
いつも興味深く記事を拝見させております。
今回の記事も、悩ましい問題だと思いました。
まず、電圧変動率の第2項は(%qcosθ-%psinθ)^2/200ではないでしょうか。
電気の技術者の立場から考えると、精密式を使うべきと考えます。
私は仕事上で電圧変動率の式を使って計算することがあるのですが、第1項のみの近似式を使って3.6%も「甘め」の値で結果が出てしまうと、変圧器など機器の設計の条件が全然違ってきます(例えば電圧変動率が実際の運用条件では大きすぎて、変圧器の電圧タップ範囲でカバーできなくなってしまうと、過励磁運転しなければならない可能性がある)。実務上は近似式で計算することはほぼないので、技術者の素養としても知っておくべきということで、精密式を使うべきと考えます。
とはいえ、受験者という立場からいうと、近似式使わせてほしいですね笑
>摺り足の加藤さん
コメントありがとうございます!
すみません、(%psinθ-%qcosθ)^2/200と書いたつもりでした汗
(記事の間違いを修正しました。)
2乗が付いているので数量は変わりません。
おっしゃる通り、実務では基本的に厳密式を使っているはずです。
エクセルとかで厳密式の関数を組んで、条件値を投入するだけにしているかと思います。
試験で、『厳密には~という定義式だが、ここでは簡便のため近似式~を使用する。』とか書けば使えそうな気もしますけど、それでも減点になってしまうかもしれませんね笑