過渡現象

ラプラス変換における部分分数分解は簡単にできる

皆さまお疲れさまです。ケンタ(@den1_tanaoroshi)です。

 

先日当ブログより出したラプラス変換本サンプル版にも書きましたが、部分分数分解は実は係数比較法を使用せずに簡単にできるということをご存知でしたか?

係数比較法を使用すると確実ではあるものの、計算量が多く面倒であるため、私は結構端折った式変形をするだけで部分分数分解をしています。

(よく見る)係数比較法

電験にラプラス変換が問題文として最初に正式に登場してくるのは、2種の二次試験の機械・制御からです。

その中で、制御系の逆ラプラス変換をする際に、部分分数分解ということをします。

具体的には、

\begin{align}\frac{1}{s(s+2)}=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+2}\right) …(1)\ \end{align}

というような感じにです。

これを参考書では…

これを参考書できちんと解説しようとすると、係数比較法を用いることになります。

 

係数比較法では、取り合えず\(\frac{1}{s}\)と\(\frac{1}{s+2}\)に分解できたそれぞれの係数を\(a\)と\(b\)とし、

\begin{align}\frac{a}{s}+\frac{b}{s+2}&=\frac{a(s+2)+bs}{s(s+2)}\
&=\frac{(a+b)s+2a}{s(s+2)}\end{align}

と変形します。そして、これと\(\frac{1}{s(s+2)}\)の係数を比較して

\begin{align}a+b=0,2a=1\ \end{align}

つまり、

\begin{align}a=\frac{1}{2},b=-\frac{1}{2}\ \end{align}

と求めます。ここまで計算して漸く、

\begin{align}\frac{1}{s(s+2)}&=\frac{1}{2}\frac{1}{s}-\frac{1}{2}\frac{1}{s+2}\\
&=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+2}\right)\end{align}

と部分分数分解できます。

とにかく計算が面倒くさい

こういうものだと慣れてしまえば良いのかもしれませんが、記述問題のときにここまで丁寧に書くのは面倒くさいです。いくらか簡単にするテクニックとしては、計算用紙の余白に係数比較の計算をして、結果の式(1)だけを問題用紙に書くという方法です。

ケンタ
ケンタ
個人的には、部分分数分解の省略をしたくらいでは減点にならないと考えています。

それよりもう少し簡単に計算する方法をということで、今回は私がいつもやっている分解方法をお教えします。

とりあえず計算してみる

\(\frac{1}{s(s+2)}\)を部分分数分解したいときは、取り敢えず

\begin{align}\frac{1}{s(s+2)}=\left(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+2}\right) …(2)\ \end{align}

として、右辺の(       )内を計算してみます。

右辺は式展開の途中ですので、この時点では等号が成立していません。
慣れてくれば、以降の右辺の(       )内の計算を暗算できます。

このときに、分母が簡単な方から難しい方を引くようにします。その理由は後述します。

\begin{align}\frac{1}{s}-\frac{1}{s+2}&=\frac{(s+2)-s}{s(s+2)}\
&=\frac{2}{s(s+2)}\end{align}

となりますので、両辺に\(\frac{1}{2}\)を予め掛けておけば、計算結果が\(\frac{1}{s(s+2)}\)となります。

 

つまり、

\begin{align}\frac{1}{2}\left(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+2}\right)&=\frac{1}{s(s+2)}\end{align}

となるので、式(2)は

\begin{align}\frac{1}{s(s+2)}=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+2}\right)\ \end{align}

と部分分数分解できます。

この方法は係数比較しない方法となります。

複雑な方から簡単な方を引いてしまうと

分母が多項式となっている方から単項式となっている方を引く、つまり

\begin{align}\frac{1}{s+2}-\frac{1}{s}\ \end{align}

としてしまうと、

\begin{align}\frac{1}{s+2}-\frac{1}{s}&=\frac{s-(s+2)}{s(s+2)}\
&=\frac{-2}{s(s+2)}\end{align}

となりますので、

\begin{align}\frac{1}{s(s+2)}&=\frac{1}{-2}\left(\frac{1}{s+2}-\frac{1}{s}\right)\\
&=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+2}\right)\end{align}

と、1行余分な計算をすることになります。

ケンタ
ケンタ
細か過ぎるかもしれません。ここはお好みで。

分母の次数が増えるとこの方法は対応できない

しかし、例えば

\begin{align}\frac{1}{s^2(s+2)}\ \end{align}

を部分分数分解するときは、今回の方法が使えません。

\begin{align}\frac{1}{s^2}-\frac{1}{s+2}&=\frac{(s+2)-s^2}{s^2(s+2)}\ \end{align}

となり、分子の\(s\)がキャンセルされないからです。こういうときは

\begin{align}\frac{a}{s^2}+\frac{b}{s}+\frac{c}{s+2}\ \end{align}

を計算するしかありません。

計算して、\(\frac{1}{s^2(s+2)}\)と係数を比較すると、

\begin{align}a=\frac{1}{2},b=-\frac{1}{4},c=\frac{1}{4}\ \end{align}

となるので、

\begin{align}\frac{1}{4}\left(\frac{2}{s^2}-\frac{1}{s}+\frac{1}{s+2}\right)\ \end{align}

となります。

ちなみに\(\mathcal{L}^{-1}[\frac{1}{s^2}]=t\)です。

過渡現象でももちろん使える

今回は数字を使って説明しましたが、インダクタンスを\(L\)、抵抗を\(R\)とすると、過渡現象の部分分数分解では

\begin{align}\frac{1}{s(s+\frac{R}{L})}\ \end{align}

を計算することになります。

これについても同じように以下の部分分数分解ができます。

\begin{align}\frac{1}{s(s+\frac{R}{L})}=\frac{L}{R}\left(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+\frac{R}{L}}\right)\ \end{align}

まとめ

今回のように計算が楽になる方法は、覚えておきたい方とそうでない方に分かれるかもしれません。部分分数分解だけを覚えておけばどんな分数でも分解できるから、余分なことは覚えたくないという方針も一理あります。

ということで、「なるほど」と思った方のみでも参考にしていただけると幸いです。

 

なお、今回の部分分数分解のテクニックはラプラス変換本ではサンプル版に収録されていますが、他にもいくつかテクニックを収録しています。

気になる方は是非ラプラス変換本をご購入下さい!

 

それでは次回!

POSTED COMMENT

  1. 通りすがり より:

    【分母の次数が増えるとこの方法は対応できない】で求めた係数を

    a = 1/2, b = 0, c = -1/2 としていますが、

    a = 1/2, b = -1/4, c = 1/4 ではありませんか?

    • ケンタ より:

      >通りすがりさん
      ご指摘ありがとうございます!
      間違いを確認致しました。

  2. りらひい より:

    ケンタさん、初めまして。

    分母を因数分解したときに2乗や3乗が出てこないとき限定ですが、私は次のようにしています。
    $a_i ≠a_j(i≠j)$であって、
    $F(s)=Σ\frac{k_i}{s+a_i}$
    となることが分かっている場合、
    $k_i =\displaystyle \lim_{ s \to -a_i }{(s+a_i)F(s)}$
    となります。

    上の例の$\frac{1}{s(s+2)}$だと、
    $\frac{1}{s}$の係数は、$\displaystyle \lim_{ s \to -a_i }s\times \frac{1}{s(s+2)}=\frac{1}{0+2}=\frac{1}{2}$
    $\frac{1}{s+2}$の係数は、$\displaystyle \lim_{ s \to -2 }(s+2)\times\frac{1}{s(s+2)}=\frac{1}{-2}=-\frac{1}{2}$
    よって、$\frac{1}{s(s+2)}=\frac{1}{2}\times \frac{1}{s}+(-\frac{1}{2})\times \frac{1}{s+2}$

    計算用紙など解答用紙の枠外でやるならば$\displaystyle \lim$なんて書かなくていいです。
    $\frac{1}{s+a}$の係数を出したいなら、元の式の分母から$s+a$を取り除いて$s=-a$を代入するだけです。

    これを使えば、分母の因数が3つとか4つあっても、あるいは分子が1次式とかであっても、分解した後のそれぞれの係数が一発で出るので便利ですよ。

    • ケンタ より:

      >りらひいさん
      コメントありがとうございます。
      リハビリと分かりやすさを兼ねて、数式を真面目にきれいに書いてみました。

      ご指摘のとおり、ヘビサイドの展開定理を使えば時間省略ができますね。
      ただ、数学が得意でない方は使い分けが難しいだろうと思い、今回は1つに解法を絞っています。

  3. Tom より:

    お久しぶりです。Tomです。やっと3種の法規に手を付けたところで、おもっいっきり躓いています。
    さて部分分数分解ですが、分母=s^n×F(s)なら、0次の項に注目して、解くこともできます。
    1/s^2(s+2)では、次のようになります。
    分子=1/2×(s+2);0次の項をここに押し込む
       -1/2×(s);0次以外の項のつじつま合わせ
    (1/s(s+2)なら、ここまで)
    (第2項をsで括って、以下同様)
    =1/2×(s+2)-1/2×s(1/2×(s+2)-1/2×(s))
    分子が1次式以上、F(s)が2次式以上の場合も、この方法でいけます。

    • ケンタ より:

      >Tomさん
      お久しぶりです。
      法規は人を選びますよね。。頑張ってください!

      さて,ご提案のところですが
       -1/2×(s);0次以外の項のつじつま合わせ

       -1/2×F(s);0次以外の項のつじつま合わせ
      のことでしょうか?
      そうであるならばその方法も行けますね。
      結局は,Tomさんのようにがちゃがちゃ試せる人が2種二次試験を突破できるのだと思います。

  4. Tom より:

    第2項の「-1/2×(s)」は、「-1/2×s」と同じです。第1項の「1/2×(s+2)」中に含まれている0次以外の部分を引く処理です。(分子に1次以上の項が含まれている場合は、それを第3項として加えてください。)
    分子=a,分母=s^n×F(s)で、F(s)の0次の項がbなら、次のようになります。
    分子=a/b×F(s)-a/b×{F(s)-b}
    第2項(以降)は、0次の項を含まないので、必ずsで括れます。

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